翼の最適断面形状を求める   Find the optimum cross-sectional shape of the wing.

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1、ドローンには翼が必要!

 世界各地で、ドローンを使った輸送システムの実証実験が進んでいるようです。

 しかし、プロペラ(ローター)で上昇力を得、機体全体を少し傾けて横移動の推進力を得る翼を持たないタイプはあまりにも非効率なのです。

 上昇後、横方向へ移動する時にはプロペラ(ローター)は推進力だけに使い、上向きの力は翼による揚力を利用するのが理想的であり、それが無理なら少しでも翼による揚力を活かして飛ぶことが効率的な訳です。   

       (from Wikipedia)


 つまり、”オスプレイ” のVTOL (Vertical Take-Off and Landing Aircraft) タイプが非常に効率的で、プロペラ(ローター)の使い方としては理想的なのです。 

 将来、如何にバッテリーの性能やモーターの性能、軽量化技術などが飛躍的に進歩したとしても、性能向上を追求する限り、航続距離と積載量の増大は永遠の課題なのです。

 ですから空気中を移動するのに、翼による揚力を可能な限り利用しない手はないのです。

 十分な大きさの翼が無理な構造なら機体の一部を翼形状にしてでも、とにかく少しでも、いや徹底的に風を切る部位は揚力を得るような形にすべきなのです。 

 抗力低減が重要なことは言うまでもありませんが、空中を横に移動するなら、少しでも揚力を得ながら移動することがどれほど効率的か、と言うことです。

 

2、現在の翼の断面形状は最適形状ではない  

 私は世の中の飛行機の翼の断面形状が似てはいますが少しづつ違って様々な形状があることに気づきました。

 それはすなわち、理想とする翼の断面形状(最適形状)がまだ見つかっていないことを意味する訳です。

 そこで私は、揚抗比の大きい翼の断面形状とはどんな形なのかを知りたくなり、様々な形状のモデルを作ってその揚力と抗力を計測しました。

 この種の実験は比較試験になります。実物大での絶対値は求められなくとも、形状による揚力と抗力の大小関係が判ればいいのです。 小さなモデルでの大小関係は実物大の大きさになった時でも、その大小関係は変わらないからです。 

 そして様々なモデルで比較試験を繰り返せば、翼の断面形状の違いでの揚力と抗力の関係(物理的道理)がだんだん解ってきて、結果の解析を間違わなければ、いずれ理想的な最適形状に辿り着くであろうことは実験する前から解っていました。比較試験とはそう言うものだからです。 

 ところが翼断面の最適形状を追求する過程で、どうも従来の揚力発生メカニズムの考え方では試験結果を説明できない事例が現れるようになり、揚力発生メカニズムの従来説を検証することになったのです。 

 実験から求めた揚力発生メカニズムの私見や従来説への疑問点と私見は別途記載していますので、ここでは飛行機の翼の最適断面形状を求めていきたいと思います。 


3、私の実験から解ったこと

1)翼の断面形状は先端が丸いより、尖っている方が抗力は小さい。

*「物体が流体中を移動する際、抗力の最も小さい理想的な形は流線形である」と言われています。 

 NACA0010 : NACA(NASAの前身)が示した流線形の一つ


 私が目にした全ての辞書がそのように解説していましたが、実は違っているのです。

 私は、いわゆる流線形の先端に存在する流れに正対する面が圧力抵抗を生んでいると考え、「流れに正対する面をなくしてやると抗力がどの程度低下するのか」を知りたくなって実験で確かめました。


 流れに正対する面を無くすには、先端を尖らせて流れを上下に分けてやればいいのです。翼の先端が丸くなっていると、必ず流れに正対する面が線状に存在する訳です。

 モデルPの先端は10Rの半円形、それに90°の先端角をつけただけのモデルOの抗力は12%も減少しました。 

 こんな小さな形状変更で12%もの大きな抗力低減ができたのです

 モデルFの先端角30°の先端はわずか2Rの半円形、ここに線状に発生する流れに正対する面をなくしてモデルEにすると、更に8.8%もの抗力低減となったのです。 

 流れに正対する面があるとそこに「淀み点」が発生します。これらの淀み点をなくす効果の大きさに着目して頂きたいのです。

 そして先端角が小さいほど抗力が小さいのは言うまでもありませんので、先端角と抗力の関係を調べたのが下のグラフです。 20°以下ではその効果が薄れて行くことがわかりました。

 時速603km/hを出した中央リニア新幹線試験車両の先端部の形状は、まだ流れに正対する平面部がかなり存在するデザインでしたが、最新のデザインではかなり是正されています。

 言葉を重ねますが、先端の丸い流線形は抗力が最も小さい最適形状ではなかったのです。 


2)先端を尖らせると失速しやすいのか?

 先端を尖らせることで抗力が低減することは超音速で飛ぶジェット戦闘機では当たり前に知られていました。

 でも、亜音速機でも大幅に低減することは、流線形のイメージが強すぎたためにあまり研究されて来なかったのではないかと思われます。

 ましてや、翼の先端を尖らせることは空気の流れが剥離して「失速」しやすいと言われていて、翼の形状としてはタブー視されており、恐らく実験も十分になされて来なかったのではないでしょうか。


 「失速」については通常、「迎角が10°位から剥離が生じて揚力は急激になくなる、これを失速と言う」との解説がほとんどですが、私の実験では翼上面で流れに剥離が生じてもしっかりと揚力が存在します

 これも目にする全ての辞書が間違った解説をしています。

 上のグラフはモデルR(一般的な翼断面)にて、迎角の変化によって揚力と抗力がどう変化するかを測定したものです。迎角が30°でも右肩上がりで揚力がなくなる気配はありません。

 このデータが示す様に、

 翼上面で流れが剥離しても揚力がなくなることはありません!

 ひょっとしてこんなグラフが悪さをしてないでしょうか?これは先程の実験結果のデータから、縦軸に揚抗比、横軸に迎角をプロットしたものです。

 このグラフから迎角14°で揚力がなくなるなどと判断するのは大きな誤りなのです。これは単に揚抗比が最大となる迎角を示しているのであり、板状の形状なら大方こんなグラフになります。


3)尖った先端が翼の投影高さの中心にある時が最も抗力が小さい。

 先端が尖っていると抗力が大きく低減すること、翼上面で流れが剥離しても揚力は無くならないことはわかりました。

 では迎角を持った翼で、その尖った翼の先端位置はどこにあるのが最も効果的か?を知りたくなったのです。 

*これらの写真でエンジンから吹き出している白い霧状の流れに注目してください。 (このエンジン特有と思われますがこれが何なのか私には分かりません)

 左は離陸時の機体が少しだけ機首上げした姿勢、右は滑走中と思われます。どちらも高揚力装置が約半分ほど伸びた状態と思われます。これらの写真から、翼の上面の流れと下面の流れの分岐点は思いのほか随分と下にあることがわかります。

*その分岐点はどこにあるのかを知りたくなって、翼先端の位置を変えて揚力と抗力を測定した結果が下図です。 

 この実験の結果から、尖った翼の先端が翼の投影高さ中心の位置にある時が最も抗力が小さいことがわかったのです。(M9は揚力ダウンで無視)

 翼の先端が、流れの分岐点が存在する線上にある時、前側の淀み点の発生はないだろうとの読みが的中したのです。 


4、翼断面の最適形状を求める

 そこで今度は翼全体としてはどんな形状が最も効率的かを知りたくなった訳です。 

 現存の代表的な3形状と私見での最適形状に近づけたモデルの結果を下図に掲載しました。

全モデルの翼面積は同一。

 迎角2°毎に計測した0〜10°の6個の揚力と抗力のデータです。 

・モデルN(一般形状)         翼厚が小さいので抗力が小さい。  

・モデルU( ジューコフスキー翼)   抗力は4モデルで2番目に小さい。翼厚も2番目。

・モデルW(スーパークリティカル翼) 迎角が小さい時に揚力が極端に小さい。

・モデルT(揚力重視の形状)                揚抗比が大きい。 翼厚はモデルWと同一。


*モデルTは迎角4〜6°付近(翼厚による)が抗力最小となる。これが私の特許の特徴

 一般に翼厚を薄くすると、抗力は減少するが、揚力も減少します。

 私の特許から導き出した形状「モデルT」が如何に高性能であるかがお解り頂けたと思います。

 モデルTの揚抗比最大の迎角は8°です。よって巡航時を考えれば、この形状の場合は機体姿勢が水平のときに翼の迎角8°に設定すれば最高効率の翼断面形状となりますが、巡航姿勢としてはこの翼厚の場合は、翼の迎角4°付近の抗力重視にすべきと思われます。

 Tは翼厚を大きくして揚力増加を狙ったモデルであり、翼厚を薄くして抗力低減を狙うこともできます。翼の強度、燃料タンク等を勘案して翼厚が決まるのでしょう。 

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(余談)旅客機が巡航態勢に入っても通路を移動するサービスワゴンを見ていると、なんとなく僅かに「機首上げ姿勢」な機種に乗ったことはありませんか?あれでは機体が余計な抗力を発生しながら飛んでいることになります。巡航時はあくまでも機体は水平であるべきなのです。通路は水平であるべきなのです。

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 翼厚が増すと抗力は増加するが、赤色線で表した部分を直線にすると、先端角が小さく出来て翼厚の割には抗力を低減できます。

 私が提言する最も効率の良い翼の断面形状(翼断面最適形状)の基本は、翼厚を少し薄くした下図の形状です。飛行機の翼は強度や燃料タンクのために翼厚が必要ですが、そのために下面を膨らませると「原理2」の影響で揚力が大きく落ちてしまうのです。又、下面を凹ませると揚力は増加しますが抗力も増加してしまいます。従って飛行機の翼の断面としては、下面は平面が得策なのです。

 そして、強度的な条件がない理想の翼は一枚の平板になるのです。

*揚抗比が高い翼を持つ飛行機は、同じ推力でもっと高いところを飛べる、高いところは高速で飛べる、高速で飛ぶと時間短縮、燃費向上はもとより、最大航続距離が伸びます。又、揚力が大きければ積載量が増える、あるいはより短い滑走路で離着陸が可能となる、等々揚抗比の大きな翼は実に様々なメリットをもたらすのです。

  

*下面を凹ませると揚力がアップするが、抗力も増大することは分かっていましたが、どの程度の差があるのか?今回その実験をしたのでデータを追記します。(August 15,2021)

*どうやら燃費性能を重視した翼の最適形状は、下面は平面であることがベストと思われる。今回の実験で再確認できました。

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The plane is flying like this! 「空力」のトップページ 翼に揚力が発生するメカニズムの説明にベルヌーイの定理は使えない。 簡単な実験で証明して揚力発生の真のメカニズムに迫る。 <車の実験屋の空力実験室> Hase Aerodynamics Labo 長谷川隆

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