翼上面で剥離しても揚力は得られる!  Lift can be obtained even if peeled off on the upper surface of the wing.

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 揚力発生のメカニズム

「原理1」:物体が空気中を移動するとき、物体の前面には空気が圧縮されて高気圧域が、後面には空気が膨張して低気圧域が発生する。

 これを翼に置き換えると、

 迎角を持った翼が空気中を移動するとき、翼の前面(下面)には空気が圧縮されて高気圧域が、後面(上面)には空気が膨張して低気圧域が発生する。この気圧差が揚力を発生する。


「原理2」:物体の周りの高気圧域から低気圧域へ空気が高速で流れ、流れが曲げられる時に物体に力を及ぼす。

 これを翼に置き換えると、

 翼周りの高気圧域から低気圧域へ空気が高速で流れ、流れが曲げられるときに翼に力を及ぼす。(曲がる空気の遠心力で翼を面直に押す力が変動し、翼上下面の力の差が揚力を発生する)



詳細は「揚力発生のメカニズム」に記載しました。


  「私見」によれば、迎角が大きくなって空気の流れが翼の上面で剥離しても、「原理1」によって問題なく揚力を得られるはずであるし、「原理2」でも翼上面で流れが曲げられるなら層流・乱流を問わず揚力はゼロにはならないはずなので、以下の実験をしてみました。 


 まず「失速」を調べると、一般的には「迎角が10°〜15°で翼上面の流れが剥離して揚力はなくなる。この現象を失速と言う」と解説されています。


  そこで、私の造ったモデルRと計測装置を使って、迎角を2°づつ、0°から30°まで変化させて揚力と抗力を測定しました。それが下のグラフです。(Re=7.9×10^4)    

 <モデルRは一般的な翼の断面形状>  


                        <迎角を0°から30°まで変化させて計測した揚力と抗力>  


 1)翼上面の流れが確実に剥離していると思われる迎角30°でも、データには揚力がなくなりそうな気配がありません


 実際迎角15°で翼モデルの後ろ半分では流れが剥離して(層流を維持できなくなって)乱流になっていました。

 動画では翼上面のほぼ中間点以降で剥離している乱流の様子と、翼周りの層流とを比較しています。

 *翼上面で流れが剥離しても、翼には、「原理1」で働く揚力は全く無くならないのであり、翼上面に沿って空気が後方に流れている状態では、たとえ乱流でも「原理2」での揚力が発生していることを示しているのです。

・別資料「揚力発生のメカニズム」に記しましたが、「原理1」は空気中を翼が移動することで必然的に翼の前後に発生する気圧の差で揚力が発生します。その気圧差に導かれて加速された空気の流れを曲げる時の反作用が「原理2」です。

 つまり「原理1」では翼周りに必然的に起こる前面から後面への「回り込み」によって揚力は発生するのです。そして翼のような板状の断面の場合、流れが表面に沿って曲げられる程度が小さく、また上下面で相殺される分もあり、「原理2」の影響はかなり小さくなるのです。


・「剥離」「剥離」と書いてきましたが、この言葉は、空気はもう翼には何も力を及ぼさなくなるようなイメージがありますが、そうではなくて、「剥離」とは、層流がこらえきれなくなって乱流になることを意味しているのです。

・乱流になっても、流れがコアンダ効果により翼上面を下方に回り込んで行く(流れを曲げている)範囲では「原理2」でも空気は引き延ばされて気圧が下がり、揚力は発生するのです。

 コアンダ効果を活用したSTOL機がありますが、コアンダ効果が発見されたジェットエンジンからの噴射の流れが層流であるはずがありません。

・迎角がさらに大きくなって翼後端から上面を逆流するような状態になれば「原理2」での揚力発生は急激に薄れていきますが、この状態でも「原理1」での揚力はしっかりと発生しているのです。迎角が70°前後の凧が勢いよく上がって行くときはそういう状態なのです。


2)私のこの試験結果(グラフ)はまた、

翼の上下面に発生する気圧差をベルヌーイの定理で説明してはいけないことも示しています。なぜなら、ベルヌーイ氏が仰っているように、「ベルヌーイの定理」は乱流ではなく、層流(定常流)が前提なのです。


3)私の推測で恐縮ですが、 

・抗力が急激に増える迎角10°〜15°付近で推進力が不足して飛行速度の上限となる。 

・ちょうどその迎角の付近で翼の上面の流れが剥離し始める。 

という二つの事象から、これ以上迎角を増せば流れが剥離することで揚力が無くなって失速する、と解釈されたのではないでしょうか。


推進力が十分に大きければ、流れが剥離してもこの実験結果のように揚力は得られ、失速しないのです。

  実際に、大きな推進力を備えた戦闘機がその例を示してくれます。アクロバティックな操縦で機体を上向き垂直にした姿勢で地面に近づける曲芸がありますが、この姿勢(迎角90°)になる過程では確実に流れは剥離していたわけです。


 更に、失速の説明でよく見る下図のような  [ グラフ ]  が誤解を招いているのではないでしょうか?

 このグラフは先の私の実験から得たデータを用いて、縦軸には揚抗比、横軸には迎角をプロットしたものです。

 このグラフでは14°付近にピークがあり、その後右肩下がりになっています。しかしこれは「揚抗比」の変化を示しているのであって「揚力」の減少を示している訳ではないのです。先のグラフに示すように迎角が30°になっても右肩上がりで揚力は増加していくのです。

 このグラフを見て14°付近がピークでそれ以上迎角が増えると揚力の発生はなくなってしまう、と言う解釈は完全に間違っている訳です。私の実験では、翼のような概略板状の断面形状なら大方このような形のグラフになります。

 尚、時折このようなグラフは縦軸に「揚力係数」と表示されていたりしますが私にはなぜ揚力係数と呼ぶのか、今一つ意味不明です。係数が変数とは変な感じがするのです。


 4)凧が受ける揚力は、翼の迎角が大きくなった時と全く同じ「原理1」によるメカニズムだと私は思います。

 ・いやいや凧は翼とはメカニズムが違い、「衝突抗力」で揚力を得ているのだ、として、凧の下面(手前の面)だけを云々している解説があります。衝突抗力と言われている力は建築工学で言う「風圧」のことでしょうか、それは分かります。 

 しかしそれなら、なぜ飛行機の翼の場合は上面と下面の気圧差で説明して、衝突抗力という考え方や言葉を使わないのでしょうか?

 「凧と翼は揚力発生のメカニズムが違う」と仰るなら、その違いの境界の状況説明が必要になるのですがそのような解説は一切見受けられません。私は建築工学での「風圧」も「原理1」と「原理2」の成せる技、と思っています。

*一般に事象の変化を説明するとき、その極限の解説があると親切ですし、途中から違う事象に変化すると言うことならその境目の状況を説明してくれなくては、読者は理解納得してくれません。

*凧と翼、その揚力発生のメカニズムは私の考えでは全く同じであり、迎角が違うだけです。そして飛行機は推進力に限界があるので、ある角度(15°前後)以上の迎角にすると抗力が増大してそれ以上速度が増加しない状態になってしまいますが、凧には十分な推進力(糸)がある、という違いだけなのです。極端な言い方をすれば、戦闘機のような自重を支える推進力を持つ飛行機なら失速によって墜落することはないのです。


 つまり、失速とは、推進力の限界を示すものであり、翼上面の流れが剥離して揚力が失われることではない、ということです。


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<今回、自作の計測装置の精度の良さを改めて感じました:嬉々>

飛行機はこうして飛んでいる!

The plane is flying like this! 「空力」のトップページ 翼に揚力が発生するメカニズムの説明にベルヌーイの定理は使えない。 簡単な実験で証明して揚力発生の真のメカニズムに迫る。 <車の実験屋の空力実験室> Hase Aerodynamics Labo 長谷川隆

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