揚力の試算  Try to calculate lift.

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一般に言われている揚力計算式は

  

L:揚力、ρ:空気密度、S:翼面積、V:飛行速度、:揚力係数

とされていますが、モデルを作って実験せずには揚力係数は未知数なので、翼形状を眺めただけでは、この式では揚力の計算はできないことになります。

 この式では迎角を変えての計算もできない、つまり翼の設計時には全く役に立たず、使えないのです。それぞれの項目が揚力にこんな形で影響している(かも)という「後出し」の関係式に過ぎず、なんか面白くないですよね。揚力発生のメカニズムが解明されないのに作られた式だから仕方ありません。


 もし翼の断面形状と翼面積、それと迎角を変更した時の揚力の概算ができるのなら設計時に使えるし面白いですよね。いやそれが出来なかったら揚力を表す計算式とは言えないでしょう。


 私見ではそれができるのか試算してみます。

*「揚力発生のメカニズム」に記述しましたように、翼(流体中の物体)には二つの原理で力が作用します。

「原理1」:物体が空気中を移動するとき、物体の前面には空気が圧縮されて高気圧域が、後面には空気が引き延ばされて低気圧域が発生する。その気圧差が物体に力を及ぼす。

「原理2」:物体の周りの高気圧域から低気圧域へ空気が高速で回り込み、流れが面に沿って曲げられる時に物体に力を及ぼす。

「原理1」:a(赤) & b(青)の気圧差で力 F が作用する。

「原理2」:流れ c & d が曲げられて力 Fc & Fd が作用する。

 「原理2」で発生する力は流れが曲げられる瞬間中心からの遠心力の合計と考えられるので、遠心力の式

から、「原理2」による揚力と抗力は、速度の2乗に比例すると思われます

 空気の質量m 、流れの角速度ω と瞬間中心までの距離rは位置により大きく変化します。


 ところで翼の形状は概略、板状であることから、

①:「原理1」が支配的になりますが、「原理2」でも上向きの力が生じます。よって実際の揚力は以降の「原理1」だけでの計算値より少し大きいと考えます。

②:「原理2」の影響は小さいですが、前向きの力が生じます。よって実際の抗力は以降の「原理1」だけでの計算値より少し小さいと考えます。


[ 注:「原理2」では上流(前方)への力も発生するのですが、翼の様な板状の形状では「原理2」の影響はかなり小さいと判断して従来は割愛しておりました。また、「原理2」の影響を計算する術が私にはありません。

 樺沢透様から、円柱での抗力計算結果で、従来式との差があまりにも大き過ぎる、とのご指摘がありました。ご指摘の通りで、円形断面では「原理2」を考慮しない「原理1」だけでの抗力計算結果は論外の数値になりました。

 今回、「原理2」の影響が最大となるのは円形断面であろうこと、それもかなり大きいことを認識出来ました。ご指摘戴いた樺沢透様に感謝致します。2022年1月19日追記 ]


よって、 ①、②を考慮した上で、以降「原理1」での揚力と抗力の概算値を計算していきます。


1、「原理1」での揚力・抗力の計算

 「原理1」によれば、物体前後の流れに直角の面の表面で起こる気圧変化の大きさは下図のグラフで示すように物体の速度に比例します。

・このグラフは1気圧の雰囲気中を物体が移動する時、物体前後の流れに直角の面の表面で、速度に対して増減する気圧の大きさを示します。気圧が分かればその面に作用する力の大きさがわかるという事です!!

・速度1224km/hはその場の音の伝播速度です。高度が増せば気圧(密度)が下がり、音の伝播速度も下がっていきます。

翼の揚力発生のメカニズムを考える時に音の概念を勘案しているのは恐らく私だけかも知れません。しかし音は粗密波、つまり圧縮(高気圧)と膨張(低気圧)の縦波が高速(音速)で伝播することを知れば、空気中を移動する物体へどんな力が加わるか、つまり物体の周りでどんな気圧変化があるかを考えた場合、音の性質を勘案せずには先に進めなかったのです。


<考え方>

*空気には大きな圧縮性があり、粘性があり、質量があるので、

・1気圧で音速が1224km/hの雰囲気中を、例えばその音速で移動する物体を考えると

 物体の後方では空気が引き延ばされ、移動方向に垂直な面の表面は、(移動速度/音速)分だけ、つまり、

   1224/1224×雰囲気圧(1気圧)= 1気圧(kgf/㎠)の低下で気圧ゼロになり、

 物体の前方では空気が圧縮され、移動方向に垂直な面の表面は

   1気圧(kgf/㎠)の上昇で2気圧になる、

と言う気圧変化が考えられるのです。

 イメージ的には下図の様な気圧の変化と、その気圧差に導かれる高速の流れ=「回り込み」が起こっていると考えられるのです。

 *空気は常に気圧の高低差に導かれた方向と速度で流れるのです。

また、

・速度100km/hで移動する物体を考えると、

 物体の後方では空気が引き延ばされ、物体の移動方向に垂直な表面には(移動速度/音速)分だけ、つまり、

   100/1224×雰囲気圧(1気圧)= 0.082気圧 = 0.082kgf/㎠の低下、

 物体の前方では空気が圧縮され、移動方向に垂直な物体の表面には

   0.082気圧 = 0.082kgf/㎠ の上昇、

が起こると考えられるのです。速度に見合った気圧変化です。(前出のグラフ参照)

空気中に生じた気圧差は一瞬(音速)で解消されるのですが、物体の移動が続くと気圧差は発生し続けるのです。


<移動方向に垂直でない面>

・移動方向に垂直でない面の場合、面直方向への速度がVsinθへ目減りしますので、単位面積当たりに及ぼす力はPからPsinθへ目減りします。

・従って速度Vで移動する物体の、θだけ傾いた平面の面積が分かるなら、速度Vsinθの時の単位面積当たりの力 Psinθ を求め、それに面積を掛ければ、その面全体に作用する力の大きさが分かる、と言う訳です。

 これであらゆる角度の平面に作用する力が計算できるのです。圧力が平面に作用する力は常に面直(面に直角の方向)です。


 つまり私見での揚力の計算式は、ある平面で、まず面直に作用する力を F とすると

F=(面直方向の速度の音速比)×(その場の1気圧に対する気圧比)×1気圧の単位面積当たりの力×面積

となるので、力F の鉛直上向きの分力(揚力)は Fcosθ、進行方向の分力(抗力)はFsinθとなります。

 従って、「原理1」での揚力の計算式は、翼の表面を分割したそれぞれの平面上で次の式で表せます。

揚力 Lift     = (Vsinθ/Vo)×(P/1013hPa) ×1気圧×S×cosθ 

     = VPSsinθcosθ/1013Vo (kgf)

抗力 Drag   =(Vsinθ/Vo)×(P/1013hPa) ×1気圧×S×sinθ

      VPSsinθsinθ/1013Vo (kgf)

V:飛行速度、Vo:その場の音速、P:その場の気圧(hPa)、S:翼面積(平面)、θ:迎角

 つまり、翼全体の揚力を求めるには翼の全表面を平面に分割して計算して、合計すれば良いのです。


*私は古い人間ですので、以下力の単位を(kgf)で記載します。それに9.807を掛ければ、力の単位はニュートン(N)になります。

揚力 Lift =  9.807×VPSsinθcosθ/1013Vo(N) 

抗力 Drag =9.807×VPSsinθsinθ/1013Vo(N) 


<以下、軽飛行機の揚力と抗力を試算してみます>

 単純な形状の高翼のセスナ機タイプをイメージします。

 翼のキャビン幅の部位を除いて、翼面積は、翼長4.9m×2、翼弦長は1.45mとします。

 下図は翼形状の概略を示します。

     

<ケース1>

 翼断面は下図のようで一定、矩形翼とします。線LHは水平線、点 Sは後端、点Tは翼の最高点、Uは先端、点Sはこの姿勢では最低点でもあります。

 今この飛行機が標高10mの滑走路を速度80km/hで滑走していて、機首上げしたある一瞬の迎角は5°とします。

 つまり水平に飛行している時、翼の先端、後端、最高点、最低点、の四つが有意点となりますが、この姿勢では最低点=後端なので、点S、T、Uが有意点であり、この翼が発生する揚力は、下図の線ST、線TU、線USで囲まれた三角形STUを断面とする長さ9.8mの3個の平面が発生する揚力と同等と考えます。

この発見がいろいろな形状の実験結果から得た閃きであり、私見の重要なポイントの一つです

・この姿勢では翼表面を三つの平面に分けましたが、ST、TU、US間それぞれを翼表面に沿って細分化して計算しても結果は同じことを確認済みです。


1)面STでの揚力計算

 面STの面積は 1.12 × 9.8 = 11㎡、面STの面直方向の速度は、

80km/h × sin10.5° = 14.6km/h

 よってこの面に働く力は、

(面直方向の速度/その場の音速)× (その場の気圧/1013hPa)×1気圧の力×面積となります。

つまり、

 (14.6km/h/1224km/h) × (1012hPa/1013hPa) ×(1kgf/㎠×10000㎠/㎡ )× (11㎡)= 1311kgf

1012hPaは標高0mで1013hPaとした時、標高10mの気圧。

 面STに働く揚力(鉛直方向の力)は 1311kgf × cos10.5° = 1289kgf となります。また面STの抗力は 1311kgf×sin10.5°=239kgf となります。

2)面TU

 面積は 0.35×9.8=3.43㎡、迎角はマイナス10°、面直の速度は 80km/h × sin10° = 13.9km/h

 よってこの面に働く力は

  (13.9km/h/1224km/h) × (1012hPa/1013hPa ×1kgf/㎠ ×10000㎠/㎡) × (3.43㎡)=389kgf

 よって揚力(鉛直方向の力)は 389kgf × cos10° = 383kgf(下向き)

となります。また抗力は 389kgf×sin10° =68kgf となります。

3)同様に面USについては

 面積は 1.45×9.8 = 14.2㎡、迎角は+5°、面直の速度は 80km/h × sin5° = 7.0km/h

 よってこの面に働く力は

(7.0km/h/1224km/h) × (1012hPa/1013hPa ×1kgf/㎠ ×10000㎠/㎡) × (14.2㎡)=811kgf

よって揚力は 811kgf × cos5° = 808kgf 抗力は 811kgf×sin5°=71kgfとなります。

 よって翼全体では

 揚力:1289−383+808 = 1714kgf、 抗力(翼):239+68+71= 378kgfとなります。

 また、主翼以外の機体(キャビン)や尾翼などは、自らのプロペラが発生する高速流の中にあるので、上記のような飛行速度と主翼の関係とは明らかに違う筈です。この扱いをどうすべきか悩みましたが、私は、この計算方法では、自らのプロペラが発生する高速流の中にあるキャビンの抗力はプロペラによる推進力の目減り分としてネグレクト(相殺)できると解釈しました。


 明らかにプロペラによる高速流の外にある着陸装置(車輪)の投影面積を0.2㎡とすると、その分の抗力は

80/1224×1012/1013×10000×0.2=131kgf (0.2㎡が平板の場合の抗力)

 ステーやタイヤの流線形の具合にもよりますが、私の実験から導いた数値から、投影面積

分の平板の抗力の約35%が実際の抗力に近くなるので、翼以外の抗力は 131×0.35=46kgfと計算しました。よって抗力全体では 378+46=424kgf となります。


 この飛行機が80km/hで滑走していて迎角5°に機首上げした時の揚力は1714kgf。

 今飛行機が1トン強の重量なら離陸開始の瞬間かもしれませんし、この十分な揚力なら5°までの機首上げは必要なかったと言うことになります。

 ケース1の計算結果は下表になります。(抗力は参考記載)

<ケース2>

 次に、この小型飛行機が500mの上空を速度150km/hで飛行していて、その時の翼の迎角は3°とします。

 500m上空の気圧は955hPa、気温は12℃で音速は1219km/hとします。

 各有意点の位置関係は下図のようです。

 翼の後端はS、翼の頂点はT、翼の前端はU、翼の最低点をVとします。

 上図の翼が発生する揚力は、四角形STUVを断面とする長さ9.8mの翼が発生する揚力と同等と考えます。よって四個の面での揚力を計算します。


1)面STでの揚力計算

 面積は 1.07×9.8=10.5㎡、面STの迎角は8°だから、飛行速度150km/h時の面STに直角(面直)方向の速度は、

 150km/h × sin8° = 20.9km/h

 500m上空の気圧は955hPa、音速1219km/h、面STに働く力は

 20.9km/h/1219km/h × 955hPa/1013hPa ×1kgf/㎠×10000㎠/㎡ × 10.5㎡ = 1697kgf

 鉛直方向では、1697×cos8° = 1680kgf、抗力は1697×sin8°=236kgf となります。 

 

2)以下同様に面TUについては

 面積は0.4 × 9.8 = 3.92㎡、迎角はマイナス11.3°

 面直の速度は150km/h × sin11.3 = 29.4km/h

 面TUに働く力は890kgf(下向き)、 鉛直方向では-873kgf (下向き)。抗力は174kgf


3)面UVについては

 翼下面の面積は9.31㎡、迎角は5.3°

 面直の速度は13.8km/h、

 面UVが受ける力は、994kgf、 鉛直方向では、990kgf、 抗力は 91kgf。


4)面VSについては

 面積は0.51 × 9.8 = 5.0㎡、迎角はマイナス2°

 面直の速度は、5.25km/h

 面VSが受ける力は、203kgf(下向き) 鉛直方向では-203kgf(下向き)、抗力は7.0kgf。


 よって揚力全体では、

 1680−873+990—203 = 1594kgf

 翼の抗力合計は、236+174+91+7= 508kgf

 翼以外の抗力は投影面積を0.2㎡として、

150km/h/1219km/h×955hPa/1013×1kgf/㎠×10000㎠/㎡×0.2㎡= 232kgf

その35%をとって、81kgf

よって飛行機全体の抗力は、 508+81=589kgf となる。


 この軽飛行機が条件で示した姿勢で150km/hで飛行している時の揚力は1594kgf

ケース2の結果は表2になります。

 揚力は1594kgfとなりました。この飛行機の重量が1トン強とすると、今は上昇中の状態と言えます。


以下次の条件で計算しました。

<ケース3>

       高度2500m、気圧747hPa、音速1196km/h、飛行速度180km/h、迎角3°。


<ケース4>

  高度3000m、気圧701hPa、音速1181km/h、飛行速度180km/h、迎角3°。


 以上の計算結果を下表に示します。

*ケース4で、高度3000mで飛行している時の揚力は1451kgfとなりました。この飛行機の重量が1トン強とすると、4000m程度が上昇限度と思われます。

*さらに揚力を増すには、スピードを増すか翼面積を増やす、あるいは姿勢を上向きにして迎角を増すことが必要ですが、いずれも抗力が増えるのでそれに応じた推進力が必要になります。

*実際にはセスナ機の翼端は若干の丸みがありますが、計算では切り落としたように角が立った形状となるので揚力の計算値は少し大きくなります。更に翼下面よりも上面が盛り上がっているので、「原理2」での上向きの揚力が少し発生するものと思われます。

*巡航姿勢は多くの飛行機は迎角が2.5°程度との情報もあり、ここでの迎角3°での計算結果は少し大き目に出ているかもしれません。

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計算結果一覧を添付します。

飛行機はこうして飛んでいる!

The plane is flying like this! 「空力」のトップページ 翼に揚力が発生するメカニズムの説明にベルヌーイの定理は使えない。 簡単な実験で証明して揚力発生の真のメカニズムに迫る。 <車の実験屋の空力実験室> Hase Aerodynamics Labo 長谷川隆

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